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最高裁判所第三小法廷 昭和26年(あ)2591号 判決 1953年7月07日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人須賀利雄の上告趣意は、後記のとおりであって、当裁判所はこれに対し次のように判断する。

原判決は、被告人鈴木喜太郎の弁護人小川哲二郎同須賀利雄の主張した、共同被告人大熊喜三郎の司法警察員に対する供述調書及び検事に対する供述調書は、第一審公判において被告人鈴木及びその弁護人が証拠調につき不同意を表明したので被告人鈴木の関係については証拠に採れないとの控訴趣意に対し、刑事訴訟法三二一条一項の「被告人以外の者」中には、共犯たる共同被告人を含まず、また同法三二二条一項の「被告人」中には、共犯たる共同被告人を含むものと解すべきであるから、第一審公判廷において、被告人鈴木と共犯関係にあるものとして共同審理された被告人大熊の司法警察員に対する第一回乃至第三回供述調書及び同人の検事に対する供述調書を刑訴三二二条の趣旨に則り被告人鈴木の関係について犯罪認定の資料に供したとしても、その訴訟手続には法令の違反はない旨判示したこと、所論のとおりである。

論旨は、原判決の右判断は論旨二(1)の当裁判所第三小法廷判決及び(2)(3)の札幌高等裁判所判決と相反すると主張するので調べてみると、当裁判所の所論判決は刑訴応急措置法一〇条三項の解釈に関するものであって現行刑事訴訟法に関するものではないから、本件の場合に適切な判例ではない。ところが、所論昭和二五年三月一五日言渡の札幌高等裁判所判決(当裁判所事務総局刑事局昭和二五年九月発行高等裁判所刑事判決特報六号一八五頁以下参照)及び昭和二五年七月一〇日言渡の同裁判所判決(高等裁判所判例集三巻二号三一〇頁以下参照)は、いずれも刑訴三二一条の解釈に関する判例であって、共犯者たる被告人等相互間の関係における他の被告人の検事に対する供述調書は刑訴三二一条一項二号の供述調書であると判断しており、これら札幌高等裁判所の判決は、原判決に先だって言渡されたものであるから、原判決は右高等裁判所のこれらの判例と相反する判断をしたこととなり、刑訴四〇五条三号後段に規定する最高裁判所の判例がない場合に控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたことに当るものと言わなければならない(もっとも、昭和二七年一二月一一日当裁判所第一小法廷決定は、相被告人の検察官に対する供述調書は被告人に対する関係においては刑訴三二一条一項二号の書面であると判示し、前記札幌高等裁判所判決と同一の見解を示しているが、本件上告申立当時においては、右決定は未だなされていなかったのであるから、本件の場合が刑訴四〇五条三号後段に当ることを防げるものではない)。そして、当小法廷もまた前記第一小法廷及び札幌高等裁判所の見解を正当であると認める。されば被告人鈴木の犯罪を認定するにつき前記共同被告人大熊の供述調書を刑訴三二二条により証拠に供することは違法であって、この点に関する原判決の判断は誤っているものと言わなければならない。

しかしながら本件において第一審判決は、被告人鈴木本人の自白を録取した司法警察員並びに検事に対する供述調書(それが任意の供述を録取したものであることは原判決の説示するところである)を補強する証拠として、証拠の標目に挙げているように多くの証拠を引用しているのであって、本件で問題となった前記大熊の供述調書を除外しても、その他の証拠によって被告人鈴木本人の自白は補強され、判示事実は優に認定し得られるのであるから、前記判例違反の事由は刑訴四一〇条一項但書にいう判決に影響を及ぼさないこと明らかな場合に当り、原判決を破棄する事由とはならない。弁護人は、論旨一(1)(2)(3)において違法な証拠を他の証拠と綜合して犯罪事実を認定した場合にその違法は判決に影響を及ぼすものであるとした当裁判所の判例を引用しているが、これらの判例はいずれも旧刑事訴訟法時代の判例であって、現行刑事訴訟法に関するものではないから本件に適切でない。現行刑事訴訟法下においては、違法な証拠を除きその余の証拠を綜合して犯罪事実を認めることができる場合にはその違法は判決に影響を及ぼさないものであるとする当裁判所の判例(昭和二六年(あ)四六七七号同二七年三月六日第一小法廷判決、昭和二五年(あ)二四九二号同二七年九月三〇日第三小法廷判決参照)がある。

よって、本件上告を棄却すべきものと認め、刑訴四一四条三九六条三七九条に従い、裁判官全員の一致した意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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